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「日本最初のスキー教本」 藻岩レルヒ会会長 原田廣記
2009.08.19
 私のスキーとのかかわりは、幼稚園の頃からスキーを始めて,楽しみながら過ごしてきたのだからかなりの年月になります。昭和40年にスキーパトロールの奉仕活動を始め,昭和47年の札幌冬期オリンピックの役員をしているときに「スキーは、いつから始まったのか?」「誰が教えたのだろうか?」などと疑問が沸き,あれこれ調べているうちに「レルヒ中佐」のことや,今回紹介する「スキー教本」のことなどにたどりつきました。ここに紹介する『日本スキー教育本』こそが,我が国最初のスキー教本であると私は考えています。以下の概要について,諸氏の感想やご意見を数多くいただきたいと願ってます。写真は,同書巻頭ページのコピーです。書名とその概要は,次のとおりです。

1.書名・発行年・編著者   『日本スキー教育本』 
  明治44年9月   陸軍第13師団刊行
         師団長  長岡外史中将
         スキー研究委員長 堀内文次郎大佐
         スキー研究員 山口十八大尉

2.発刊にあたり〜長岡中将
  楽 東 風 粲 (春の風陽光に輝く情景を)
  雪 饗 之 中 (大雪原の演習に楽しむ) 

3.スキー帳序文〜堀内大佐 
 スキーとは何か、私はこれについて説明しようと研究をしました。男でも女でも真冬の雪を克服し楽しむことである。その素晴らしさは百回聞くより一回見るほうが理解できる。「私は、スキーの将来に大きな望みを託しています。」

4.スキー解説〜山口大尉
(1)スキーの由来
 昔から、ノルウエーやスエーデンの北部で冬期雪の上で使用するカンジキを長い木製の形に変えスキーを初めて作った。これがノルウエーはじめヨーロッパやロシアの北の地方に広く使用された。南ヨーロッパには1890年頃スキーを国境の山岳地帯「アルプス」山脈で使用し、国防や交通に便利であることが分かりスキー学校を作り講習会を開いた。アメリカ・カナダでもスキーを導入し使い始めた。
 我国日本では、明治43年12月スェーデン駐在杉村公使より、スェーデン国軍用のスキー2種類が陸軍省に寄贈され製造した。同省は、高田第13師団にスキーの研究を指示、同時にスキーの名手オーストリャ国軍参謀少佐テォドル・エドラ・フォン・レルヒ氏に高田13師団付の勤務を依嘱して、スキー技術を指導させた。
(2)スキーの構造
 スキーの形や構造は、使用の目的や使う人によって変わるが、スキー板と締め具の二つの主要な部分に大別できる。スキー板の材質は、けやき・しおじ・とねりこ等の折れにくく軽い材質の木で作り、長さはその人が立って片手を伸ばした長さが適寸で約180〜230cm、幅は約9cm、厚さは一番厚いところで3cmです。締め具の構造は、各国で多少の違いがある。その他必要なものは、ストック。長さは使用するスキーの木部と等しくし下端には石突きがつく。長めの手袋は上着の袖まで。
(3)スキーの効力
 スキーは雪が深いところならば、どのような所でも容易に登ることができる。急斜面でも登行は可能であり、降りるときの速度は「ウオーターシュット」。「シュット」はドイツ語で「落下」の意。スピードが加速するが急停止や進行方向を変えることが自由に出来る。スキーは一般の交通では郵便・電信の集配や鉄道・電線等の保全係、水道の管理、警察そして軍隊・医者や産婆さんは必要とする道具である。体育遊戯としては、至る所にゲレンデを求めることが出来る。危険も少ないスポーツである。以上の説明をもって巻頭言とします。
 
5.スキー技術教育基準表
(1) 解 説―スキーの由来と効用・その付属品の構造と製作法・保存方法と修理方法・スキーの服装及び用具・気象が及ぼす積雪・事故と危険予防の方法・団体でのスキーツァー教育・跳飛運動。
(2) 講習単位ー4単位。  1単位は半日(3時間)とする。
(3) 基 本―スキーの運搬方法・着脱・ストックの使用方法・転倒と起き方・雪上での立ち方・滑走。
(4) 練 習―登行・横への移動・方向変換と方向転換・滑走中の急停止・制動滑降・回転滑降・横滑り。
(5) 講習単位―(基本・練習)36単位。
(6) 応用演習―障害物の中のスキー操作・雪中での休憩・難しいコースのスキー操作・各種の雪質と悪天候下の中でのスキー行対策・高地でのスキー操作。
(7) 講習単位ー16単位。

6.スキー技術教育予定表
・1日目―(午前)室内にて,スキーの由来大要・スキーの構造・スキーの種類・スキー各部の名称・手入れ保存の方法・ストックの構造と用途・スキーの服装と用具。
    (午後)野外にて,スキーの着脱と準備の起立姿勢・スキーの持ち方・雪上の立ち方と歩行・棒状ストックの持ち方。
・2日目―(午前)平地の歩行・方向変換・方向転換(キックターン)。
     (午後)平地での歩行・緩斜面での立ち方と歩行。
     2日目以降21日目までは,総て野外とする。
・3日目―(午前)推進滑走・横への移動・後ろへの移動・緩斜面の滑降。 (午後)危険に対しての予防法・スキーの用途と価値。
・4日目―(午前)小さい溝の通過・小橋の通過・転倒と起き方の練習・緩斜面の滑降・スキーについた雪の除雪方法。(午後)諸復習。
・5日目―(午前)稲妻形の斜登行・斜滑降。(午後)諸復習。
・6日目―(午前)階段登行・中程度の斜面の滑降。(午後)色々な斜面の滑降。
・7日目―(午前)今までの復習。(午後)スキーの点検手入れ。
・8日目―(午前)階段登行・横滑りと停止。(午後)午前中の復習。
・9日目―(午前)回りくねりひねった斜面の滑降。(午後)滑降中の急停止技術。
・10日目―(午前・午後)前日の復習。
・11日目―(午前)制動滑降。(午後)諸復習。
・12日目―(午前・午後)キックターン・回転・急斜面の滑降と急斜面キックターン。
・13日目―(午前・午後)諸復習。
・14日目―(午前)障害物のある場所の滑り方(凹凸地や幅の狭い樹林地)。(午後)転倒時の対処の仕方・ツァーの注意。
・15日目―(午前)復習。(午後)山岳ツァー出発の準備。
・16日目〜18日目―山岳ツァー(二泊)。
・19日目―(午前)復習。(午後)ビバークの設備と資材運搬方法。
・20日目―(午前)技術検定。(午後)テレマーク・クリスチャニャ急停止。
・21日目―(午前・午後)テレマーク急停止・クリスチャニャ急停止。

 以上は、明治44年に日本で始めて編纂された「スキー教本」,すなわち,「第13師団スキー研究委員会」よりの転記と当時の新聞等を参考にしてまとめました。中央図書館には,各種新聞記事がマイクロフイルムに保存されてあります。また,北海道大学図書館にもスキー関係の図書や資料が保存されていて,学外の一般市民も利用することができます。

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