「一本杖スキー」についての新聞報道に関して (文責・HP編集担当者 相原 靖)
2012.02.29
本年1月13日付の北海道新聞朝刊(第29面)に「一本杖役割二つの意見」の記事が掲載されました。この報道の経過と当会の見解について編集担当者から説明します。
昨年12月18日付の北海道新聞朝刊に、ニセコ関係者からの要請により本会が実施した「一本杖スキー」の実技披露の写真で一本杖の使い方が違っているとの投書が新聞社へ入り、北海道新聞社の黒川編集委員が当会原田会長宅まで問い合わせにお出でになりました。当会としては、レルヒの伝承スキー教本(明治44年9月刊行)などに基づき、『制動滑降』という文言もあり、現在の実演を実施していることを黒川さんへ説明しました。
ところがN氏の調べではその事実はなく、レルヒのその後の手紙や記述などでは一本杖はバランスをとるのに使用していたとのことで「レルヒ会のデモ演技は史実と違う内容になっている」旨の指摘があり、本年1月13日付の新聞報道になりました。
当会は、このホームページに紹介している「日本最初のスキー教本」その他の文献や資料をもとに、多数の会員によってレルヒが日本に伝えたころのスキー術を当時の服装などとともに現代に再現する努力を続けてまいりました。1世紀も前にレルヒが日本にスキーを伝えたときにレルヒが書き残した文書があるとのことですが、その文書が存在しないのか?私達はまだ見ていません。
明治末期から大正初期のレルヒ直伝の方々による何冊かの著書にも「杖ヲ制動器ニ應用シ滑降スルコトヲ得例ヘハ其法杖ヲ兩脚ノ間ニ入レ・・・」(金井勝三郎著「スキー滑走」大正2年発行)のように明らかに「制動」の文言が記述されています。
福永恭助著「スキー術練習参考書」(大正3年)の抜粋紹介
この文献32ページに第15図「墺国制動法」が掲載されていますが(写真右ページの図版)、杖を持つ姿勢は判りますが杖の先がどれほど雪面にささっているかははっきりとは判りません。杖に跨って滑降することは危険ですが、その強弱を加減しながら姿勢を維持して、斜面の中途でも停止しようとする技術は必要であったろうと思われます。集団滑降で滑降者の速度を揃えようとする場合でも同じように考えられます。図版や写真だけでは判断できないであろうことと、また、傾斜雪面での技術を実技の検証無しに論議することの難しさについて述べるものです。
ニセコヒラフで演じられた「一本杖スキー」の集団滑降
このデモンストレーションの様子が北海道新聞で報道されたとき記事の表現は「藻岩レルヒ会が主催」とされましたが、本会が主催するはずがなく地元の二セコグランヒラフが主催でJTBが企画し、そこからの要請依頼があったので当会が出向いてデモンストレーションを演じました。
藻岩レルヒ会は、独自の視点と解釈でレルヒ伝承時期の用具と扮装を工夫して「一本杖スキー」の集団滑降のデモンストレーションをこれまでも各地で展開し続けています。
過日、N氏から本会へ手紙をいただきました。その内容でも「制動滑降」の事実はないとのことで、本会のスキー実技披露を「笑止千万」とか「学習勉強会を開いてしゃべらせていただけたら…スキー研究者として…」云々とありました。当会としましては、N氏からの指導をお願いする必要はないと思います。もしどうしてもと,とのことでしたら実際にN氏の考える「一本杖スキー」の見本を見せていただきたいとさえ思います。この件でN氏と論争をするつもりはありません。理論や解釈はそれぞれが信じるとおりでよいと考えるからです。
N氏は当会への「私信」のなかで「私の研究に自信は持っておりますが(というのは原書も含めて多くの文献を確かめておりますので)……」と述べていました。原書を含めて、どのような文献にどのような記述があり、それをどのように解釈したものであるのか氏の主張の論拠は全く記述されていませんでした。原書や古書からの読み取りについては、単に語学力だけでなく、深い洞察力を要するものと思われます。スキーの理論については、実技の検証が不可欠であると考えます。独断と偏見、自説の押し売りは受け取りたくはないと思います。当会を支援してくださる方の大半はこの件についての言及をしないほうがよいとのご意見でしたが、ホームページ編集担当者「文責」にて掲載しました。